びわ湖がんばれ!ワーグナー《神々の黄昏》歌詞対訳あります

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「制作費1億6千万円のオペラ、無観客で上演 ユーチューブで無料配信」というニュースがツイッターでバズっていたので、今回初めて《黄昏》を鑑賞する人もたくさん来るかもしれません。そんな初心者向けにアドバイスです。
ワーグナーの《神々の黄昏》は《ニーベルングの指環》という四部からなる大作の四番目、完結編にあたるオペラです。とてつもなく長いです。途中2回の休憩(視聴者のためではなく歌手のために必要)を入れて6時間かかります。ストーリーは暗喩に満ちていて哲学的でかなり難解です。演奏する人にとっても、鑑賞する人にとっても、オペラ史上もっともハードなオペラのひとつと言って間違いありません。
ですので、途中で寝落ちしてしまっても自分を恥じることはありません。正直言って私自身もほとんど理解できてませんし、最後まで完走する自信もありません。
音楽でとてつもない世界を創り上げた奴がいたのだということを、うっすらと感じ取れれば十分だと思います。
コロナウィルスのせいで外出もままならない週末です。この機会に是非チャレンジしてみてください。
たぶん「序幕/第1幕」が終わった時点で「???」でしょうから、「第2幕」までの休憩時間に《ニーベルングの指環》全夜のあらすじをウィキペディアでさらってみるといいかもしれません。
中継を見終わって「なんかビビっと来た、もっと見たい!」という方は、うちの全曲動画対訳をどうぞ。今から半世紀昔のパブリックドメイン音源にドイツ語日本語字幕をつけてYouTubeに上げてあります。
さてここからは、今回の緊急対応について、いろいろ不思議に感じたところがあるので書き残しておこうと思います。
まず、今回の公演を中止にする必要はなかったと、私は思います。みんな思ってることでしょうが、満員の通勤電車を放置しておいて、イベントを中止したり学校を休校にしたりすることにどれほどの効果があるというのでしょう。
もちろん強行すればリスクはゼロではない。けれどもそれは経済的損失やその他諸々の影響と天秤にかけた上で、総合的に判断されるべきでしょう。岩田先生も言ってます、「ゼロリスクを求めてはいけない」と。
ちなみに上野ではこの週末もパリ・オペラ座バレエ団の公演が予定通り開催されてます。私、先日《ジゼル》見てきました。入口で赤外線サーモチェックしたり、あちこちに消毒液置いたり、ちゃんとリスクを減らす措置を講じた上で開催していました。宝塚歌劇団も3月9日から公演を再開するそうです。自粛は国の要請に過ぎないのだから、みんなやりたければやればいいんじゃないでしょうか。
ともかくオペラの制作費は巨額です。中止となれば莫大な損失です。今回の報道で初めて具体的な数字を知りましたが、1億6千万円だそうです。衣装や舞台装置のコストはもちろんのこと、《神々の黄昏》はオーケストラの編成も大きいし、合唱も入りますし、観客に見えないところでは裏方さんもたくさんいます。その数百人規模の人件費やら交通宿泊費やらを、リハーサルから本番まで半月から1カ月近く負担しなくてはいけないので、そのぐらい行くでしょう。
しかしもし中止しなかったとしても、実は大赤字なのですね。びわ湖大ホールの収容人数は1848席だそうです。チケットの加重平均単価がいくらかわかりませんが、ちょっと高めに約2万円と見積もっても、予定の2公演分の売上は7千万円に過ぎません。実に9千万円の赤字です。おそらくこの赤字は国か地方自治体の補助金でカバーする計画なのでしょう。それはつまり税金です。
ところが、今回の中止で赤字は制作費まるまる1億6千万円まで拡大してしまったのです。これどうするんでしょうか。
まず第一に考えるべきは、中止と決めた以上、損失額を最小にする精一杯の努力をするのが納税者に対する責務ではないかと私は思うのです。中止を決めたあとも、数百人を劇場に留め置いて人件費を流出しつづけるというのは考えものです。
もっとも、その損失はひょっとするとコロナ対策で国から補償が出るのかもしれません。それだって税金ですけどね。歌手やオーケストラのみなさんにしてみれば、ギャラが補償されるのであれば、スケジュールは空いているのだから歌ってもいい、いやここまで練習したんだからぜひ歌いたいということなのかもしれません。
歌手やオーケストラ、その他裏方のみなさんなど、現場の心意気は100%買います。張りきって歌ってほしいと思います。もしギャラの補償がなくても手弁当で歌いますということなのだとしたら、なおさらです。
しかしマネージメントレベルでスジの通った経営判断がなされたのかという疑問については、責任者には納税者に対して説明責任があるし、ジャーナリストのみなさんにはそこのところちゃんと突っ込んでいただきたいものです。
もうひとつ今回の緊急対応で不思議なのが、急遽YouTubeでの生中継が実現し、DVDの発売まで決まったということです。
なぜ不思議なのかというと、このようなオペラの映像収録やネット配信は課題が山積みなので、日本では非常に難しいというハナシをさんざん聞かされてきたからです。実際3年前から始まったこの《指環》プロジェクトでネット配信が実現したのは今回が初めてです。というか、ある程度の規模の商業的オペラ公演のネット配信が日本で実現した例を私は知りません。
欧米では、すでにネット配信の実例がいくつもあります。大規模なところではEUのカネを使ってやってるらしい OperaVision です。ずっと規模の小さいところでは、アメリカやポーランドの地方都市のオペラ劇場でやってたりします。
ポーランドでできるのになんで日本ではダメなのか。契約の問題とか収録スタッフの確保とかいろいろあるんでしょうが、少なくともポーランドでは課題をクリアしてやっているのです。
それが今回びわ湖ではなぜかできてしまった。しかもこの混乱のなかで。火事場の馬鹿力なんでしょうか。不思議です。
今回できたことを自信に変えて、もうできない理由ばかり探すのはやめにしましょうよ。それが私いちオペラファンの願いです。
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この記事へのコメント
美術館も同様に再開していただきたい。